/masa晴読雨読 その5
【あらすじ】
15年前に母を亡くし、奔放にして享楽的な父を持つ少女、セシル。
彼女もまた、父に似た性質を持ち、2人で刹那的な快楽に満ちた生活を送っていた。
そんな2人が、父の恋人エルザとともに海岸沿いの別荘へやってきてすぐ、知人であった聡明な女性アンヌも別荘へやってくる。
アンヌは父と結婚の約束を交わし、セシルにも娘として、理知的に冷静に接した。
これまでの生活が失われることへの恐れ、社会的に正しい価値観に対しての反抗、相棒である父をとられることへの不安。
そして、自分たちの性質を否定され、矯正されることへの不満。
それらが動機となって、セシルは、父とアンヌの仲を引き裂く計画をたてる。
父に捨てられたエルザと、現地で出会った恋人のシリルを共犯者に計画を実行、見事に成功する。
裏切られたアンヌは自動車事故(自殺?)を起こし、帰らぬ人となる。
後に残った2人は良心の呵責に苛まれながらも、その性質のままに享楽的な日々に戻っていった。
【感想】
描写や展開は一般的なものでスラスラと読め、まったくストレスのかからないものでした。
なのですが。
登場人物の心理を理解し、想像することには、多大な苦労を必要としました。
下手したら胃に穴が空くんじゃないか、と思われたほどです。
なにせ、主人公であるセシルが青春期ゆえなのか、女性ゆえなのか、感情や価値観が二転三転し、ただの一時も一貫性がないのです!
愛してると言ったかと思えば愛してないと言い、良心の呵責に苛まれたと思いきや少し構われただけで喜色満面になる……。
はっきりいって、《異邦人》のムルソーのほうが、まだ論理的な一貫性があると思います。
ただ、それだけ理解し難い心理であるにも関わらず、その価値観の離れぐあいは理解できます。
それができるのは、セシルの感情をあますことなく描写しているからでしょう。
全体からしても、セシルの心理描写が中心になっており、深層心理から無意識まで丹念に描かれているのは、いい勉強になります。