デモンパラサイト 『それぞれの始まり、夏の終わり』41
「白石くん、私は彼がこのまま我々の手駒として働いてくれるなど、夢にも思っていないよ」
「では、なぜ……」
「順に説明してあげよう。彼女ーーミナくんを完成させるためには、より多くのサンプルたる悪魔寄生体が必要だ。そして、私は完成したミナくんを正人くんに引き渡すことを条件に、彼に悪魔寄生体回収への協力と彼自身を研究することになった」
「それはわかります」
白石の相づちに、OKとばかりに口を歪める渡部。
「だが、彼は自分の状況を利用し、外部に連絡して我々を倒させようとするだろう。ミナくんが完成するまで、タイミングを調節しながら」
「お分かりなら、なぜ対策をうたないのです?」
「なぜって、効率がいいじゃないか。正人くんから我々の存在を知った悪魔憑きたちは、我々を打倒しようとするだろう。それを我々が打ち倒していけばよい。悪魔寄生体回収は正人くんだけが行っているわけではないのだからね」
渡部の解説に頷きながら聞いていた白石だが、まだ納得できず「しかしながら」と反論した。
「個人ではそうですが。悪魔憑きの相互扶助組織、セラフィムが悪魔憑きたちをまとめ始めれば、厄介なことに」
「それもまた不可能だ。セラフィムにはまだ、組織力も資本もない。悪魔憑きをまとめあげようとすれば、それなりの時間がかかる。さらに、人が集まれば慎重になり、正人くんの行動を罠だと疑うことすらするだろう。動きはまた遅くなる。相手の動きを見てから動いても、余裕たっぷりだよ」
「……!?」
「万事は順調の極み。ほどなく我々は、人類の新たな高みを見ることができるだろうね」
そう言って晴れやかに笑う渡部を見て、白石は背中に寒いものが伝うのを感じた。
自分の上司ながら、渡部が恐ろしかったからだ。
ここまで人を物のように利用しきった ことは、さすがの白石でも考えられない。
だが、目の前の初老の男は、それをコーヒーでもたしなみながら考え、実行に移せる。
あらゆる点において、白石が敵う相手ではない。
渡部が敵でなくて本当によかったと、白石は思った。
渡部の笑いは残響を伴い、いつまでもいつまでも終わらなかった。
〜完〜