デモンパラサイト 『それぞれの始まり、夏の終わり』39


 朱夜も仕方なく悪魔化した。
 意識を集中するに従い、一部の皮膚や筋肉が硬質化していく。
 形状も変化し、黒色の硬い革鎧を纏ったような姿に。
 両方の手首や足首には、刃状の鋭い突起が現れる。
 その出で立ちは例えるなら暗殺者。
 "神速の暗殺者"の異名を持つ悪魔寄生体、ファランクスを体現したかのような姿だ。
 両腕の刃にて、正人の刃を受け止める。
 ガキリ、と鈍い音が真夜中の住宅街に響いた。
 受け止められたのも意に介さず、正人は体ごと押し込んでいく。
 ファランクスたる朱夜では、素早さならともかく、力ではクレイモアである正人に負けてしまう。
 抵抗も空しく、壁に叩きつけられてしまった。
 背中から強烈な光線を浴びている正人だったが、それでも朱夜に対する攻撃を止めようとはしない。
 すでに体が密着するほど押し込んでいるのだが、まだ押し込まんとしているのか正人の全身に力が込められていった。


 「…………」
 「なに……?」


 朱夜は、正人がなにごとかを小声で呟くのを聞いた。
 それは本当に微かな声で、悪魔化して知覚力が上がっていなければ聞こえなかっただろう。
 今までかけられていた力による拘束が、不意に弛んだ。
 正人が、光線によるダメージに耐えられなくなったか、横にかわしたからである。


 「ちっ、二対一じゃ勝てねえか」


 キューの光線による追撃をかわし続け、正人は舌打ちしながら毒づいた。


 「今回はおまえらに譲っておく。けどな、悪魔寄生体は必ずいただく!」


 そう叫ぶと、数十mの高さを軽々と飛び、他の家屋の屋根をつたって逃げた。
 追いかけようとしたキューは、朱夜が立ち止まっているのを見て、怒りを露にする。


「なぜ追わない! 臆病風にでも吹かれたか!?」
 「追えば捕まるだけだ」
 「なんだと!?」


 朱夜に憤りを感じたキューは、食いかかってやろうかと考え、朱夜を睨み付けた。
 そして見つける。
 朱夜の手に、見知らぬ紙が一枚握られていることに。