デモンパラサイト 『それぞれの始まり、夏の終わり』38


 「これは失礼、私の名は渡部。簡単に言えば、君たちの敵だ」
 「……なるほど。おまえが正人の携帯を使っているということは……」
 「そう、残念だが今回は君たちの負けだ」


 できることなら、今すぐ携帯を叩き割りたいという衝動が、朱夜を襲った。
 だが、思いとどまる。
 そんなことをしたら敵との接点がなくなり、相手に動揺を悟られることになる。


 「用件は?」
 「単刀直入に言おう。君が悪魔憑きならば、宿っている悪魔寄生体を回収させてもらう。君が悪魔憑きでないなら、スカウトしたい」
 「なるほど……どちらもNOだ」
 「だろうだろう、そうだろう。そう言うと思って、すでに人を派遣してある。あの正人くんの友人だ。素直に頷いてくれるなど、夢にも思っていないよ」
 「用意のいいことだ……」
 「では、後のことは彼に聞きたまえ。そろそろ、そちらに着く頃合いだ」


 通話が切れた。
 用件だけ言って、とっとと切ったようだ。


 「……なるほど、確かに来ているらしい」


 朱夜は、外から強烈な気配が放たれていることを、感じ取っていた。
 同時に、朱夜は、その気配が馴染み深いものであることに動揺した。
 相手を確認するべく、キューと共にやおら窓から庭へと飛び降りた。
 暗闇の中に、確かに誰かが立っていた。
 まだ闇に慣れてない目で、相手を確認しようとする朱夜。
 その目に明らかな動揺の色が灯った。


 「正人!?」
 「朱夜……おまえの悪魔寄生体、いただくぜ」


 そこにいたのは、悪魔化した正人だった。
 言うが早いか、両腕に"生体武器"によって武器が生成される。


 「なんの真似だ!」


 それまで静かだったキューが、怒りのあまり吠えた。
 瞬時に悪魔化し、額に第三の眼を開かせる。
 背には翼が生え、体毛は白金色に輝きだした。
 キューに宿る悪魔寄生体が、"輝く天使"の異名を持つモリオンであることは、その姿から一目瞭然である。
 すかさず、自身の攻撃手段たる特殊能力"光線"の準備に入る。


 「何があったんだ、正人!」
 「悪魔寄生体を回収しないと、ミナが助けられねえんだ!」


 仲間の叱責にも、険しい表情を崩さない正人。
 次の瞬間には朱夜に向かって駆け出し、武器化した腕を降り下ろした。


 「……くっ!」