デモンパラサイト 『それぞれの始まり、夏の終わり』37


 時刻はすでに真夜中になり、日にちが変わってさえいた。
 自宅にて、朱夜は未だこない正人からの連絡を待っていた。
 もう十何杯目かになるコーヒーをちびちび口に運び、襲ってくる睡魔に対抗している。
 強大な力を振るえる悪魔憑きだが、その力を維持するには大量の食事と充分な睡眠が必要となる。
 もし、それらを疎かにすれば力は弱まり、最悪死に至ってしまう。
 その危険を侵してもなお、朱夜は起きていた。
 それは、朱夜の隣に座っているキューも同じである。
 行動開始からすでに数時間を経過したが、携帯は鳴らない。
 いい加減、なんらかの連絡があってもいいはずなのに。
 またコーヒーを飲もうとして、カップが空になっていることに気づいた。
 朱夜は顔をしかめて、コーヒーを補充しようと立ち上がる。
 プルルル……。
 ちょうどその時、携帯が音楽を鳴らし、着信を知らせる。
 朱夜は即座に手に取り、念のために相手を確認した。
 正人の名が画面に表示されているのを見て初めて、通話ボタンを押した。


 「正人、何をしていた? 少し遅いぞ」


 顔には出さなかった焦りが出たのか、矢継ぎ早にまくしたてるようになってしまった。 しかし、その返事は朱夜が予想していたようなものではなく。


 「やあ、君が黒桐朱夜くんだね?」


 朱夜の耳に入ってきたのは、いつものぶっきらぼうな口調の少年の声ではなく、粘りつくような独特の話し方をする、年を重ねた男の声だった。


 「ザ・スパイミッション……。自壊機能を付加したプログラムでハッキングを行い、自動的に痕跡を消してしまう手法。世界各地の主要なトップセキュリティを完敗させたという、伝説のハッキングメカニズム及びテクニックを考案したのが、まさか10代の少年とはね」
 「誰だ?」


 予想もできない事態に遭遇しながらも、朱夜は冷静な態度を崩さなかった。
 ただ、それは表向きであり、内心は事態を把握しようと必死だ。