デモンパラサイト 『それぞれの始まり、夏の終わり』36


 「白石くんに感謝したまえ。カプセル内の液体濃度は、細胞の活動に合わせて随時調節する必要があってね。ここの機械のどれかでも壊れたら、能力の暴走を止められないのだよ」


 渡部は話を聴いているか確かめようと、正人の顔前でおおげさに手を振ってみせた。
 視線だけは手を追っているものの、いまだ衝撃から立ち直れないのか、依然として動かないままだ。
 そんな正人の態度に、溜め息をつく渡部。


 「あと、私の脳には、ある機械を埋め込んでいてね。私の脳内で、ある物質が分泌されると起動して、ここの全装置が止まるようになっている。外部からの操作すらできない状態になってね」


 正人の口が、不自然な動きと間で開かれた。


 「なんで、そこまでするんだよ……?」
 「知れたことだよ」


 やっとのことで言葉を紡いだ正人とは対照的に、渡部の弁舌はますます流暢になっていった。
 もう完全に渡部の独壇場だ。


 「この研究は私のものだからだ。彼女は悪魔憑きの母たる存在、"女王種"。しかも、ただの女王種ではない。私だ! 私が0から造りあげた、人工の女王種なのだ!!」


 話しているうちに興奮してきたのか、どんどんと渡部の声が高く大きくなっていく。


 「私だ! 私こそが優秀な人材を集め、知識を収集し、実験道具を揃え、計画を練り、皆を指揮した! この研究は私のものだ! 私以外の誰にもこの研究は! 女王種たる彼女には指一本触れさせん!」


 さきほどまでの冷静さと落ち着きは消え失せ、目はギラギラと嫌な輝きを放ち、呼吸は荒く、口は裂けんばかりにおし広げられ不気味な笑みを形作っていた。


 「……狂ってやがる」
 「いつの時代も、先を見据えた者の行動は、一般人には異常に見えるものだ」


 正人が今言える最大の侮辱を吐き出すが、渡部たちはそれを平然と受け入れ、あまつさえ笑いすら浮かべる。


 「さて、君を殺すのはたやすいが、それはしない。なぜかは賢い君なら分かるね? 上田正人くん?」