デモンパラサイト 『それぞれの始まり、夏の終わり』33


 それだけ言って、ふう、と息を吐き出す。


 「ミナはどこにいる?」
 「ここにいる。正確には私の後ろに」


 不意に天井からの光が、スポットライトのようにカプセルに当てられた。
 沈黙。
 正人の動きは再び止まり、渡部を凝視したまま視線さえも動かさなくなった。
 ミナの居場所を教えられても、ぴくりとも動かない。


 「どうした?」


 返事はしない。
 する余裕がない。


 「なぜ、会ってやらないのかね?」


 動かない。
 正人の全身が動くことを拒否している。
 身体がいうことを聞かないわけではなく。
 正人自身が、拒絶しているのだ。


 「顔をあげれば、すぐ会えるのだよ? 待ち望んでいた瞬間だろう? さあ、早く」


 ゆっくりゆっくりと話しかける渡部の声は、まさしく悪魔の囁きだった。
 獲物をいたぶる捕食者のそれにも似ているかもしれない。
 静かな室内には、正人の荒い息と、渡部の囁きしか聞こえなかった。
 たっぷり数分は経っただろうか。
 やがて意を決したように、正人がゆっくりと顔をあげる。
 その動作はとても緩慢で、錆び付いた鉄のように脆く、ぎこちない。
 ギチリギチリと首が奇妙な音をたてる。