デモンパラサイト 『それぞれの始まり、夏の終わり』31


 渡部は、巨大カプセルのすぐ前に設けられた机に座っていた。
 後ろからのカプセルの光が逆光となって、渡部がかけている眼鏡が爛々と光り、怖いほど気味の悪いシルエットを形成していた。


 「きみと少し話したいんだが、いいかね?」


 渡部が落ち着いた様子で問う。


 「てめえが話していいのは、ひとつだけだ」
 「それは残念だな」


 正人の素っ気ない返事にも笑みを浮かべる渡部は、さらに言葉を続けた。


 「それにしても見事なものだった。援護もあったとはいえ、単独でここまで来たのは君が初めてだ。称賛、いや絶賛というべきだな」


 形が見えると錯覚するほどの濃縮された正人の殺気を受けてなお、渡部の弁舌は流暢に冴えていた。
 場の緊張感などお構い無しに。
 まるで大学の講義でもするかのようだ。


 「さきほど君が使った爆弾は、チルドレンチームが実験の際に使っていたものだ。おそらくはこうだろう……」


 渡部は正人がどうやって爆弾を入手したのか、その方法を確認……いや、説明し始めた。


 「今日の身体検査担当は岩佐くんだったね、彼の協力を得たのだろう? 爆弾の管理はチルドレンが担当しており、その責任は当然リーダーである利家くんが負っている。もしも研究資料のひとつでも無くなれば、責任問題になるだろう。爆弾の置かれた部屋で岩佐くんと会った君は、そう言って資料を盗むふりをしたのではないかね? その時に資料ではなく、爆弾を盗んだ。違うかね?」
 「それがどうした」


 ことさらに低い声で正人が答える。
 渡部のふてぶてしい態度に業を煮やしたのか、警戒しながら渡部に近づいていく。


 「身体検査の時、岩佐くんは心底怖かったろう。君が服にひとつ、口の中にひとつ爆弾を隠し持っていたのだから。もし、岩佐くんがおかしな真似をすれば爆発させるつもりだったんだろう? どこで爆発させようと結果は同じ。移動距離に差が出るくらいのことだったろうからね」