デモンパラサイト 『それぞれの始まり、夏の終わり』30


 焦る気持ちを抑えて、赤き魔人が走っていた。
 2mを越す巨体に似合わぬ軽やかな音が、周りに反響して異様に響きわたる。
 降りた先にあったのは、奥へと至る通路であった。
 通路はとても広く、幅は20m、高さは30mを越えている。
 なんの必要があって、これほど広い空間を設けたのかはわからないし、今の正人には興味もない。
 今はただ渡部と白石を追い詰め、ミナを助けるだけだ。
 数分は走っただろうか、視線の先に巨大な扉が見えた。
 叩き破ろうと、走りながら"猛炎撃"の構えをとる正人。
 しかし、予想に反して、正人の到着を待っていたかのように扉はひとりでに開いた。
 罠か?
 幾多の戦いを潜り抜けてきた勘が、頭の中で警報を鳴らす。
 だが、今は躊躇している時ではない。
 先手必勝、相手の態勢が整う前に決着をつけねばならないのだ。
 かくして、警戒はしたまま勢いは殺さずに、扉の奥へと侵入した。
 扉の奥は、今までよりもさらに巨大な部屋となっていた。
 広さは40m四方にして、高さは50m。
 明かりはついておらず、室内はとても暗い。
 悪魔憑きの強化された視覚で辺りを見回せば、壁には研究用の装置が並べられている。
 どうやら、ここもなんらかの研究を行う場所なのだろう。
 部屋の中央には大人3〜40人は入れそうな、ひときわ巨大なカプセルがあり、そこだけぼんやりと発光していた。
 周りに光源はなく、おそらくは中に満たされた液体が発光しているのだろう、と正人は考えた。
 カプセルの中になにか入っているらしく、カプセルの中に奇妙なシルエットが写し出されている。
 何が入っているのか、ここからではよくわからない。


 「ようこそ、上田正人くん。ここは私個人専用の研究室だ」


 カプセルに気をとられていた正人は、正面から聞こえてきた渡部の声で我に帰り、渡部のいるであろう場所を睨みながら構えた。