デモンパラサイト 『それぞれの始まり、夏の終わり』27
渡部にうながされ、眼下のリングに目を向けた白石は信じられないものを見ていた。
対悪魔憑き用強化ドアが壊され、監視役として止めるはずの綾が地面に倒れ伏している。
その側には見慣れぬ赤き魔人がいた。
それが正人だと、すぐに気づく。
たとえ姿が変わろうと、敵を正面から睨みつける鋭い眼光は見間違えたりはしない。
「まさか、こちらへ突っ込むつもりか……?」
「その通りだよ、白石くん」
ありえないと思いながらも、気味の悪い悪寒を拭いきれない白石は、半ばやけくそのように言った。
だが、それすらも渡部に肯定されてしまう。
悪寒はさらに強まり、白石の全身を震わせる。
「白石くん、早く特別避難路まで行こうじゃないか。間に合わなくなる前にね」
白石が一も二もなく頷いた。
モニター室内に備えられた、丸く区切られたゴンドラのようなスペースへと向かい、操作端末に手をかけた。
だが、端末を押さない。
「教授、あのドアが破壊されたのは先ほどの爆発によるものでしょう。彼単体で、モニター室の強化ガラスを破るなど……」
「ふむ、では自分の目で確かめてみるといい。私も確認してみたい。すぐに動かせるようにはしておきたまえ」
渡部と白石がそんな会話をしていた間、正人はモニター室を睨んだまま動かなかった。
体色と同じ色になった両の瞳がせわしなく動く。
まるでなにかを測っているかのようだ。
やがてニヤリと笑うと、倒れたままの綾を掴み、モニター室とは逆の壁に向かって走り出した。
ぶつかる直前、ぐっと身体が沈め、跳躍。
すぐさま踏ん張り、両足で壁を蹴ってモニター室の見えるガラスへと飛んだ。
いわゆる三角蹴り。
悪魔憑き、それもクレイモアの持つ基本的な特殊能力によって、ゆうに10m以上はある距離をスキップのように軽々と跳躍した。
ガラスに差し迫った時、おもむろに掴んでいた綾をガラスに投げつける。
そして、舌を出して笑いながら、綾を掴んでいたのとは逆の手を口元へ。
その手でまた、なにかを綾とガラスの間あたりに投げつけた。