デモンパラサイト 『それぞれの始まり、夏の終わり』25


 瞬間で猛加速した正人は、文字通り一瞬でリングへの入り口にたどり着いた。
 悪魔憑きの力でも破られないように、特別に加工されたドアが正人の行く手を阻んでいる。
 ぶつかる直前で急ブレーキをかけるが、一度ついた慣性はその程度では消せない。
 このままぶつかるのがオチだ。
 だから正人は、鷲掴みにした綾をつきだし、自分の代わりにドアに激突させた。
 彼女をエアバッグか盾代わりに使ったおかげで、激突の衝撃を受けずに済んだ。


 「ぎ……っ!」


 後頭部を固いドアに叩きつけられ、綾の口から悲鳴が洩れた。
 いかな変身後の悪魔憑きとはいえ、傷ついた体を打ち付けられれば激痛なのは当然だ。
 直後、綾は軽い浮遊感を感じた。
 正人がやや上に投げあげるように手を離したからだ。
 綾は嫌な予感がした。
 そして、その予感は的中する。
 重力に従って落下する綾の体を、兇悪 な力が横合いから繋ぎ止めた。
 まずは腹に鈍痛、しかるのちに胸、顔、肩、回り回って再び腹。
 正人が繰り出し続ける拳の乱打が、打ち付けられる杭となって、綾をドアに固定する。
 足は未だ宙に浮いたまま、地面に下りない下りられない。 純粋なる凶器として綾に叩き込まれる拳は、さらに速度を増していく。
 それは例えるなら嵐、まさに嵐打と呼ぶにふさわしい猛攻。
 その猛攻に、鉄壁のはずのドアが軋む。
 最初はわずかな軋みが次第に大きくなっていき、耳障りな悲鳴と化していった。
 よく見れば、さきほどの爆発によって 、ドアにヒビやへこみが生じていた。
 それらの傷が正人の猛攻によって広がっていき、深刻なものになっていく。
 そして、ついに致命傷ともいえる亀裂が入り、ドアは瓦解した。