デモンパラサイト 『それぞれの始まり、夏の終わり』24


 綾へと突進する正人に向けて落とされた稲妻。
 しかし、それは当たることはなかった。
 けして、稲妻が遅かったわけでも、正人が速かったわけでもない。
 そもそも正人はかわしてもいない。
 では、なぜ外れたか?
 それは正人が……突然真後ろに退いたからだ。


 「えっ!?」


 なぜ?
 なぜ後退する?
 綾の顔が困惑で埋まっていき、瞬間、思考が停止した。
 この場で最適なのは、わたしを倒すこと。
 そして、そのために最も有効な攻撃はひとつしかないはず。
 なのに、なぜ!?
 推進力たる炎を逆噴射し、正人は後退する。
 彼に焦りも悔しさもなく、ニタリと口の端を釣り上げ、舌をダラリと出して笑っている。


 (なぜ笑っているのですか!?)


 正人の態度は、綾をさらに困惑させた。
 だからこそ、だからこそ反撃はおろか、回避や防御すらできなかったのだ。
 彼女の背後から襲いかかった、爆風に。


 「!!??」


 撃音と爆風が嵐のように、控え室全体を包み込み、猛威を振るった。
 その勢いは隣の更衣室にまで及んでいく。
 その留まることを知らぬ破壊力は、まだ暴れ足りぬ、と不満を抱いているかのようだった。


 「が……は……!」


 衝撃と炎をまともに浴びた綾は、苦しげに呻きながら床に倒れ伏した。
 かろうじて意識を失わずにすんだが、それも苦痛が上回っていたからにすぎない。
 自分が何をされたのか、混濁した頭で考えるが、どうにもわからなかった。


 (なぜ、あの爆弾を……どうして……!?)


 疑問を解こうと頭を働かせようとした直後、その思考は中断を余儀なくされる。
 近づいてきた正人に片手で頭を鷲掴みされ、引き上げられたからだ。
 いまや身の丈2mを越えた魔人と化した少年に吊り上げられた綾。
 その手足は完全に宙に浮いてしまっていて、ただ力なくたれ下がるのみ。


 「……」


 綾を吊り上げたままの正人は、無言で 走り出した。
 向かう先は、実戦テストを行なっているリング。