デモンパラサイト 『それぞれの始まり、夏の終わり』22


 「だああああああっ!」


 正人が雄叫びをあげるともに、彼の髪が一斉に逆立った。
 その現象はすこし離れた位置にいるはずの綾にも起こる。
 正人の体から放たれた熱気が、気流を作り出したがために 起こった現象である。
 熱気は温度をどんどんと上がっていくのを、控え室に備えられた温度計が教えていた。
 40℃、50℃、60℃……それでも数値はあがっていき、最終的には破裂してしまった。
 それに平行して、炎が正人の全身を包んだ。
 ゆらめく炎の中で溶けていくように形を崩す正人の肉体はひとまわり小さくなる。
 しかし、さらに時が経つに従って、今度はふたまわりほど巨大になっていった。
 シルエットはもはや少年……いや、人間のものではなく、刺々しい鎧を纏った大男か、異形の魔人のようである。
 これぞ"炎の魔人"の異名を持つ、クレイモアの悪魔化した姿だ。
 正人より一瞬遅れて、綾も悪魔化を始めた。
 こちらも全身が巨大化するが、クレイモアタイプに比べれば、その全身像は人間と大差はなく、シャープなものだ。
 皮膚は硬質化して主を守る鎧となり、肘や膝には素手で攻撃するための棘や突起物が生えている。
 しかし、一番特徴的なのは、体のあちこちにある水晶体であろうか。
 絶えず内部から発光しており、その光が水晶体の外へ飛び出すこともある。
 空気に触れた光はバチッと激しい音とプラズマによる光を残し、霞のごとく消え失せる。
 別名"稲妻の魔術師"と称される、カラドボルグの悪魔化した姿である。


 「さて、お互いに悪魔化した以上、冗談ではすみませんよ?」


 綾が挑発的な口調で無言のままだった場に、言葉の波紋を投じた。
 普段の温和な印象はなりを潜め、どこか憎たらしげで妖艶な気配を漂わせている。


 「安心しな、冗談なんぞじゃ終わらせはしねえからよ」


 正人もまた不敵に笑みなどをこぼして、まったくふてぶてしいものだ。


 「てめえなんざ、オレの足下にも及ばねえ」