デモンパラサイト 『それぞれの始まり、夏の終わり』22


 (距離約6.5m、悪魔化はなし、特殊能力使用形跡も……なし)


 綾は瞬時に周りの状況を把握し、自身の勝利を確信した。
 正人にとって、周りが敵ばかりであるこの状況での最適解は、できるだけ早く自分を戦闘不能にすることだ。
 正人は綾が悪魔憑きであることはしらない。
 しかし、悪魔憑きと考えた上で戦闘不能にしようとするだろう。
 そのためには最大の攻撃を繰り出す必要がある。
 そして、正人に宿る悪魔寄生体はクレイモアと呼ばれるタイプ。
 クレイモアが放つ最大の攻撃は、"生体武器"によって武器を作り出し、"猛炎撃"による移動攻撃のみだ。
 その威力は強大で、下手をすれば悪魔化しても一撃で倒される危険があり、最も警戒すべき攻撃だ。
 だが、その攻撃は絶対に当たらない。
 なぜなら、"猛炎撃"による移動距離は5mまでであり、6.5mの間合いを維持する今の状態では届かない。
 移動して、さらに"猛炎撃"を放てば届きはしよう。
 その場合は、威力が格段に落ちる。
 悪魔憑きとしては体力の高くない綾でも、一撃では致命傷にはならない。
 それに綾の悪魔寄生体は、電撃による遠距離攻撃を得意とするカラドボルグ。
 その基本の攻撃特殊能力である"落雷白電"は、敵の頭上に雷を落とす能力で、射程は30m。
 やろうと思うなら 、"猛炎撃"で突進してきたところを迎撃することも可能だ。
 だが、そこまでせずとも時間を稼げば、すぐに鎮圧部隊が来る。
 わざわざ一人で戦うなどという愚は冒さなくてもよいのだ。
 綾は心の中で笑った。
 考えれば考えるほど、こちらが勝つ要素しかない。
 これも、この控え室の広さがあればこそできることである。


 (その行き届いた見識と気配り、見事としか言えません)


 綾は施設の設計者の賢明さに感謝した。