デモンパラサイト 『それぞれの始まり、夏の終わり』11
大友学園地下に設けられた施設の一部であるその空間は、人も物も整然としていた。
壁に掛けられた時計に沿うように、書類がめくられ、器具が動き、人が働いている。
部屋全面が白統一されており、専門書が並べられた本棚や、様々な器具の置かれた収納スペース、それに大掛かりな実験に使われるらしい装置に囲まれている。
その中に置かれた大小いろいろな机には、パソコンや書類、フラスコやビーカーなどといったものがスペースの限り、みっしりと整理されていた。
一目見れば分かるように、ここは実験室である。
たいていの実験室は使い続けるうちに物が散らかり汚れるものだが、ここは不気味なほどにそれがない。
人も物も、あまりにも整理され、あまりにも整っている。
あまりにも現実味がないため、一般人には学校の理科室のように見え、世界の最先端をいく研究が行われているとは、けして思わないだろう。
だが、ここは間違いなく世界の最先端かつ極秘の研究室。
ここでいつものように研究を続ける白衣の者たちは男女問わず一様に若い。
いや、若過ぎると言っていいだろう。
なにせ全員の年齢層が中学生かそこらであり、中には小学生ともおぼしき歳の者さえいる、少年少女たちだからだ。
その少年少女たちこそが、若年層でありながら研究室のひとつを使うことを許されている知の精鋭、“チルドレン”なのである。
そんなチルドレンたちが、突然の来訪者に戸惑ったのは予定になかっただけではない。
来訪者は予想と違い、はるかに大物だったからだ。
室長や研究部長といった直接の上司などより、はるかに格上の人物。
すなわち、渡部教授だった。
彼こそは、大友製薬が進める極秘プロジェクトの総責任者にして、プロジェクトに関わる分野の権威である。
その叡智を買われ、大友製薬社長からプロジェクトへの全権を一任されている。
一般の研究員程度では面会すら許されない、ここを含めた何十とある施設の長である。
大人物の予定にない来訪に、さしもの精鋭チルドレンたちも慌てて作業を止めて畏まった。
「ご苦労、諸君」
渡部が片手を挙げて気さくに挨拶をするが、チルドレンたちは畏まり過ぎて、対応できない。
渡部はその様子に苦笑した。
「そう固くならんでもいい、少し報告があるだけだからな」
渡部の言葉にも、やはりどう反応していいか分からない様子のチルドレンたち。
しかし、「報告」と聞いて畏まった状態を解き、渡部の次の言葉を待った。
「今をもって、チルドレンのリーダーは彼女、利家綾くんが務めることになった。それに伴い、前リーダーは解任する。あと2〜3時間で正式な辞令が来ると思うが、こういうものは早いほうがいいと思ってな」
チルドレンたちは皆、突然の人事に驚いた。
特に驚いたのは、渡部とともにやってきた綾。
そして、もう一人。