デモンパラサイト 『それぞれの始まり、夏の終わり』7


 担任と校長室に向かいながら、正人は突然の状況の意味するところを必死に考えていた。
 大友学園……、それはこの大友市で1番偏差値が高く、有名大学への合格者も多く輩出する、小中高エスカレーター式のエリート校である。
 さらに、日本国内だけでなく世界に進出している大友グループへの就職率もまたトップクラス。
 中でも、グループの中心である大友製薬の本社に入るには、学園を優秀な成績で卒業することが一番の近道なのだ。
 ……が、正人には関係のない学校だ。
 大友製薬に入りたいわけでもなければ、エリートとしての将来を考えているわけでもない。
 将来の見通しすらついていない。
 そんな余裕がないほど、正人の現在とは逼迫しているのだ。
 だから、考えれば考えるほど分からない。
 頭を捻っているうちに校長室に着いた。
 担任の後に続いて、書類とソファにスペースを占領された部屋へと入る。
 奥の机に座る校長の横に、男が一人立っている。
 白いスーツにメガネ、清潔で知性的なイメージを漂わせるその男は……。
 正人の心臓が一瞬跳ねた。
 その男こそ忘れもしない、白石と名乗った男だったから。
 白石も気付いているはずだが、特に反応は示さず、校長と談笑などしている。


 「おお、上田くん! おめでとうおめでとう!」


 正人に気付いた校長が上機嫌で声をかける。
 生徒たちの起こす問題の処理に追われ、いつも渋面の校長が、今は顔を緩ませきっている。
 ケンカを売られることが多く、それゆえ問題の数も多い正人を厄介払いができるのが、よほど嬉しいらしい。
 ご機嫌の校長をなかば無視して、白石が語る。


 「はじめまして、上田正人くん。私は、大友学園特別進学教室の主任教師を務める白石という者だ。今受けてもらったテストは、いわば優秀な人材を発掘するためのものでね。これまで受験生の中でもキミは群を抜いている。ぜひとも我が校に来て欲しいんだよ」


 笑顔で饒舌に語りながらも、白石の眼は挑戦的だった。
 この罠の中に飛び込んでくる勇気があるか?、と言わんばかりだ。
 正人はさきほどの白石同様、反応を示さなかった。
 そして、気の抜けた声を出す。


 「はあ」
 「もちろん、ただでとは言わない。寮生活をしてもらうことになるが、学費などの費用は全てコチラ持ちだ。どうだろう、悪い話じゃないと思うけれどね」
 「ああ、それは嬉しいっすね」


 校長や担任は一瞬、奇妙な顔になった。
 けれど、すぐに納得した表情に変わる。
 人を寄せ付けない気難しい部分のある正人が、ずいぶんとしおらしくなったことへの驚きなのだろう。
 しかし、それも当然かもしれない、と校長たちは考えなおした。
 不良の身でエリート校への招待を受ければ、無理もない反応だろうと。
 実際のところは違うのだが。


 「返事はどうなんだい? イエス? それともノーかな?」
 「あ、もちろん。喜んで行かせてもらうっす」


 大友学園編入を、正人はふたつ返事で受け入れた。