デモンパラサイト 『それぞれの始まり、夏の終わり』6


 翌日、正人は自宅へと帰った。
 正人が眠っている間に朱夜が勝美に連絡をしてくれたらしく、少し確認をされたくらいですんだ。
 ミナと花火を見ている最中、偶然にもミナの親戚に遭遇。
 実はミナは迷子になっていたらしく、親戚は心配してずっと探していたそうだ。
 ミナ曰く「言い出すのは恥ずかしかった」とのこと。
 「浴衣は洗って必ず返す」と言い残し、花火の終わりと共にミナは親戚と帰った。
 その後で朱夜と合流し、朱夜の家で話し込んでいたら連絡するのを忘れて寝てしまった。
 ……そんな筋書きだった。
 嘘をつくのをためらった正人だったが、それが勝美のためでもあると自分に言い聞かせ、朱夜と口裏を合わせた。
 それからはバイト探しを口実に、施設についての情報を調べ回るが、成果は上がらない。
 それは朱夜やキューも同じらしい。
 焦る気持ちとは逆に、無為に時間は過ぎていく。
 そして、8月上旬の登校日を迎えた。
 その日の学校では小テストが行なわれ、生徒たちは悲鳴をあげることになった。
 進学校でもない大滝工業高校において、このような形でのテストが行われるなど前代未聞である。
 それは教師たちも同じらしく、プリントを配りながら、例年にない仕事について頭を捻っていた。
 テスト内容も奇妙なもので、おおよそこの学校の偏差値にふさわしくない難問揃いだった。
 中には大学レベルの問題もあるほどだ。
 すべての問題が、今まで授業で習った内容の応用であり、ヒントとして応用すべき法則や授業範囲などが書かれていた。
 いくらヒントありとはいえ、生徒のいずれもが頭を抱え、多くが諦めて机に突っ伏した。
 そんな中、正人は別の理由で頭を抱えていた。


 (な、なんだこりゃ……。なんで、こんな問題が解けんだ?)


 一般的な生徒程度には真面目に授業を受け、そつなく理解している正人であっても、本来なら解けないはずの難問。
 だが、実際はヒントを的確に理解し、その授業内容を完璧に思い出している。
 ただ思い出しているだけでなく、法則の構造や変化のパターンも把握した上で確実に応用しているのだ。
 頭脳だけが別の誰かと入れ替わっているのではないか?
 そんな錯覚すら覚えるが、鮮明になった頭脳の感覚は、間違いなく正人自身の頭脳が働いていることを知覚させた。
 やがてテストが終了。
 プリントが回収されるが、すぐに採点するらしく、生徒たちは教室で待機となった。
 疑問や愚痴が飛び交う中、正人は自分の変化に戸惑っていた。


 (これも悪魔寄生体の力かよ?)


 悪魔憑きは肉体の他に知性や精神力すら増大する、と朱夜は言っていた。
 話を聞いただけでは、どのていどの変化か分からなかったが……。
 数十分後、担任が教室へ入ってきた。
 担任は開口一番に正人の名を呼んだ。


 「上田、校長が呼んでるから校長室まで行ってくれ」
 「何の用だよ?」
 「理由は知らんが、なんでも大友学園の人が、おまえにぜひ学園に来て欲しいそうだ」


 正人を含め、教室内の生徒全員がぽかん、とおかしな顔になった。