デモンパラサイト 『それぞれの始まり、夏の終わり』5


 「これは、オレのせいで起こったんだ。ミナはオレと会って、オレが街を連れ回して、家まで連れていって。あげくに足止めまでしちまった。それにアイツらはやべえ。おまえを巻き込むわけにはいかねえよ」
 「正人」


 再び朱夜が咎める。


 「なぜこんな時にまで、無理をするんだ? 一人ではできないことくらい分からないわけじゃないだろう。それとも、俺はそんなに頼りなく見えるのか?」
 「そうじゃねえ」
 「正人、それは気遣いじゃない。ただの拒絶だ。……頼ってくれ、俺を友だというのなら」
 「朱夜……すまねえ」


 正人の中で何かが折れた。
 けれど、挫折感や喪失感といったものはなく、逆に安堵に満たされていた。
 それは自分に無理をさせるための支えだったのだろう。
 大切な人を失うまいと築いた決意が、逆に人を遠ざけていたことにいまさらながら気付いた。
 イメージで誤解されているが、狼は孤高を好む獣ではない。


 「力を、貸してくれ。朱夜」
 「もちろんだ、正人」


 目覚めて以来、初めて正人が笑顔を見せた。
 朱夜も笑顔だった。
 多少やつれてはいたが、清々しい笑顔である。
 そんな彼らの横にキューが近付き、言う。


 「そこに私も混ぜてもらおうか」
 「おめえが?」
 「当然だ、ミナのことなら何にでも関わらせてもらう」


 犬とは、集団の秩序と安全を守ろうとする生き物である。
 キューにとって、施設で共に過ごしたもの全員が“集団”であり、ミナは守るべき仲間であり庇護の対象である。
 ミナのことに関わるのは彼にとって至極当然で、むしろ集団と無関係の人間2人が関わろうとすることのほうがおかしい、という感覚なのだ。


 「ありがとう、助かるぜ」
 「おまえのためではない、ミナのためだ」


 そう言ったキューは、じっと正人を見つめた。


 「なんだよ?」
 「いや、なぜミナがおまえに構うのか、分かった気がしてな。おまえはミナに似ている」


 それは正人も微かに感じていたことだ。
 ミナは楽しんでいるように見えても、どこか他人に気を遣うふしがあった。
 そう感じとったのも、ミナに不思議な親近感を感じたのも、自分に似ていたからかもしれない、と正人は改めて思った。
 だからこそ、花火を見た時のあの姿が、心の底から喜び楽しむあの姿が嬉しかった。
 もっとあの顔を見たいと思った。
 そのためにもいろんな所に行き、いろんなものを見せよう。
 そう思った矢先。
 悪意の槍に貫かれ、死んでしまったのだ。
 だが。
 もしかしたら。
 死者すら蘇らせる悪魔寄生体があるかもしれない。
 それを見つけ出せば、ミナも……。
 朱夜たちが来た時、ミナの姿はすでになかったらしい。
 ということは、何者かが運び去った可能性が高い。
 あんな人もよりつかない場所に用があるのは、ヤツらしかいないではないか。
 正人、朱夜、キューの3人の目的は決まった。
 ヤツらの正体を暴き、悪魔寄生体の情報とミナを奪取することだ。