デモンパラサイト 『それぞれの始まり、夏の終わり』4


 「私とミナは、ある施設で育った」


 次々に真実を知らされ、ようやくのことで理解した正人に、キューは自分たちの立場を語った。 施設の前の記憶はないらしい。
 もともとないのか操作されたのか、……それすら分からないようだ。


 「とにかく気付いた時にはミナと一緒だった。ミナだけじゃない、人間動物を問わず、私たちと同じ境遇のものたちがブロックに分かれて閉じ込められていた。数日を過ごすうちに、私たちが実験体であることが分かった」


 来る日も来る日も、白衣の人間たちがキューたちに様々な器具を取り付けたり、獣やキューたち同士を戦わせたという。
 かと思えば、TVや本を与えたりもしていたようだ。
 それは、まるでですらなく、モルモットの暮らしそのものだ。
 キューは頭を軽く振った。
 陰惨な記憶が呼び起こされ、思考が鈍るのを避けたかったのだろう。
 次の瞬間には、再び冷静さを取り戻していた。


 「逃げだそうとする者も後を絶たなかった。……全員、連れ戻されて極端な施術をされ、私たちの力を計るための、生物兵器になっていた」
 「……よく逃げ出せたよな」
 「全員が協力してくれたからな。このまま施設にいても、無事にはいられないのは明らかだった。逃げ出せれば、外から助けを呼ぶこともできるからな」


 淡い希望でしかないが、とキューは付け加えた。


 「だが、諦めたわけでもない、か?」
 「当然だ」


 朱夜の問いにもキューは澱みなく答える。
 もっとも、今の朱夜の言葉は問いというよりは、確認に近い。


 「朱夜、キュー。悪魔寄生体ってのに、蘇らせるヤツはいねえのか?」
 「……回復を得意とするのは私の“モリオン”だが、死んだ者を蘇らせる能力はない」
 「……そうか」


 悪魔寄生体には様々なタイプが存在する。
 肉体強化系のクレイモア、ヴォージェ、ファランクス、ブリガンダイン。
 電撃や人形を操るなどの特殊な能力を使うショーテル、カラドボルグ、モリオン、ウォーコイト。
 中でもモリオンは回復に長けた悪魔寄生体で、瀕死のものでさえ全快させるほどの能力を持つ。
 また、悪魔憑き自体もよほど念入りにとどめをささないかぎりは死なない。
 首を切り離されようと、背骨を折られようと、心臓に穴が空こうと、10分以内であれば生き返る。
 だが、一度完全に死んでしまえば、2度と生き返ることはない。


 「ただ……」
 「悪魔寄生体の研究もそれほど進んでるわけじゃないらしい。実際、まだ詳細の分からないタイプや新種も発見されているそうだ」


 落胆する正人に2つの声が重なって響く。
 キューが話そうとしたのを朱夜が代弁する形となった。


 「そうだな、あの施設でもそうした研究は盛んだった」
 「そうか、分かった」


 食事と質問を終えた正人の表情は、焦燥と後悔から決意と覚悟を秘めたものへと変わっていた。
 短く「世話になったな」と告げて踵を返し、食堂を後にしようとする。


 「正人」


 それを見咎める朱夜。
 静かな中にも若干の嘆息と怒りが込められている。


 「また一人で行くのか?」


 その言葉には隠しようもない悲しみがあった。