デモンパラサイト 『あの日の夏、ぼくたちの夏』22
正面からは白石、左右からはそれぞれ部下のいかつい男と細身の男。
ミナと正人をを囲む形で、3人が攻撃を仕掛ける。
細身の男が指を向けると、筒状になった指から無数の弾丸が全身を打ち抜かんと飛び出した。
いかつい男はどこから出したのか、巨大な戦斧を両手で握り締め、ミナに振り下ろす。
怜悧なる連携攻撃にも、ミナは動じない。
素早く両手交差させると、次の瞬間には弾丸は全て勢い殺がれて地に落ち、戦斧もまた受け止められて無力化されていた。
気付けば、ミナも素手ではなくなっている。
半円をかたどった小さな盾のようなものが、円の部分が手を保護するように、手首から生えていたのだ。
そして、半円の直線部分からは成人女性の背丈にも匹敵する刃渡りの、巨大な剣が生えていた。
弾丸を叩き落とし、戦斧を食い止めたのは間違いなく、この剣によるもの。
ミナが交差していた手を戻すと、動きに合わせて剣が勢いよく振り抜かれる。
その動作はそのまま剣撃となり、強靭な男たちをなぎ払った。
男たちを振り払ったのも束の間に、白石が右手を巨大な突撃槍に変えて突進してきた。
鋭利な穂先がミナの顔面を捉えようとした時、ミナは攻撃の勢いを殺さずに両手を顔の前へ。
今度は円の部分から等間隔で5振りの短い刃が出現する。
それぞれから現れた刃は交差して、網を作り、敵の凶器を真正面から受け止めた。
巧みに穂先を逸らすと同時に大剣を横になぐ。
しかし、これは白石のバックステップで躱されてしまった。
ミナが振り切った腕を元に戻し、次なる攻撃に備える。
すると、今や6振りの刃が現れた半円の盾は、その動きに連動して独立した生き物のように向きを変えて、主の動きに答える。
6振りの刃を備えた奇妙な盾。
それは手甲であり、盾であり、短剣にして大剣。
恐ろしいほど奇怪でありながら、攻防併せ持った洗練された造形。
人間が扱うという前提がなければ、使いこなせる者がいるという前提ならば、これほど機能的で芸術的な武器はない。
武器だけではない。
それを扱う主の戦いもまた、芸術的だった。
繰り出される戦斧を、弾丸を、突撃槍を。
逸らして、弾いて、躱す。
防御と回避を巧みに使い分けながら反撃する様は、相手とともに踊る淑女のようだ。
一撃一撃が人間の命を一瞬で刈り取る、慈悲なき行ないであるにも関わらず、状況を忘れて見惚れてしまう者も少なくはあるまい。
正人はいかに自分が浅はかであったかを思い知らされた。
本当の命のやりとり、死ぬか生きるかの戦い。
今、目の前で繰り広げられている戦いに比べれば、今まで自分がやってきた喧嘩など幼児のじゃれ合いに過ぎない。
戦いはミナが優勢だった。
正人を庇いながらであるため、その場を動くことなく応戦していた彼女だっだが、それでもいかつい男と細身の男を吹き飛ばした。
両者、ともに周りの樹々に体を打ちつけており、戦線復帰には多少の時間がかかるようだ。
あとは白石だけ。
この凍れる騎士を打ち倒せば、この場を切り抜けられる。
圧倒的に不利な状況でありながら、白石は余裕を失っていなかった。
氷の面当てから覗く視線に、嘲りが浮かんでいるようにも見える。
「たしかに前よりも強くなっているようだ……。まさか、3対1でこれほど苦戦するとはね」
白石が感心したように言う。
「しかし、今のきみには私一人で充分だ。もう息が上がっている。3対1はやはりこたえたようだね?」
「……」
ミナは答えない。
だが、上下する肩と荒い息が、言葉以上の雄弁さで白石の言葉を肯定していた。