デモンパラサイト 『あの日の夏、ぼくたちの夏』14
だいぶ時間に余裕をもって出発した2人だったが、着いた時には祭りはすでに始まっていた。
大友市の夏祭りは、上田モータースからほど近い、川辺の神社で行われる。
花火大会も兼ねての祭りであり、その花火の見事さからか、他の街からも観光客が来るほどだ。
若者が威勢のいい掛け声をあげながら神輿を担ぎ街を練り歩く。
神社と川辺、両方に出ている出店の主もまた、客引きに余念がない。
色とりどりの服や着物を着て行き交う人々は、若者から年寄り、親子連れと様々だ。
正人とミナが遅れた理由は単純で、歩くのが遅かった。
ただ、それだけだ。
ミナは浴衣で歩くのは初めてで難儀していたし、正人は正人で女の子と歩くのが初めてで、やはり試行錯誤していた。
と、2人ともそんな調子であり、祭りにもやっと着いたといった心地に違いない。
とはいえ、時間がかかった分は無駄ではなかった。
出店を周る頃には、いつもとは違う調子にも慣れ、祭りを楽しむ余裕が生まれていたからだ。
「あれなに? あれなに?」
「いかやきだろ? 食うか?」
いつにもまして、ミナがはしゃいでいる。
まあ、彼女にとっては初めてなのだから、無理もないが。
「うわっ、輪投げ楽しそう!」
「それよりも射的しようぜ! 射的!」
いつもなら、はしゃぐミナを落ち着かせる正人なのだが、今は童心に帰っており、ミナと共に出店を縦横無尽に駆け回る。
お祭りで盛り上がっている会場の中でさえ、2人のはしゃぎっぷりは目立っていて、カップルが唖然とした表情を浮かべたり、老人が苦笑したりもしていた。
それから小一時間ほど経っただろうか。
出店周りもようやく一段落した2人はビニール袋を敷いて、川辺にある土手の上に座り、パンパンに膨らんだ腹を擦っていた。
清楚ながらも可憐な浴衣を纏った、小柄で線の細い少女。
そして、赤いTシャツをワンポイントとして、黒いスラックスと薄手のジャケットを着込んだ、凄味を感じさせながらもどこか純朴な少年。
2人は、実に絵になるカップルであるはずなのだが。
頭にはお面、手には風船ヨーヨーとわたがし、射的で散々取った商品などが入った袋を脇に置いている姿では台無しである。
「もう入らないかも」
「俺もだ」
これ以上ないくらい安らかな声でミナが呟き、正人がそれに続く。
またもや台無し。
ムードや雰囲気もへったくれもない。
それとも、げっぷをしないだけまだマシ、と考えるべきなのだろうか?
「あと20分か」
携帯を取りだし、時刻を確認する正人。
「なにが?」
「花火大会。ここの花火はちょっとしたもんだぜ。もっとも……」
ぐるりと下を見回す正人。
いい場所を確保しようと、たくさんの人が集まってきている。
「この辺りは人でごったがえして、あんま楽しめないけどな」
「えー」
「大丈夫だ、人も来ないで花火もバッチリ見える、絶好の場所があるんだよ」
顔をしかめて抗議するミナに、言い聞かせるように正人が答える。
すると、不機嫌だった顔がくるりと半回転。
「じゃ、連れてって。そこ行きたい」
猫のように丸い瞳を輝かせながら 満面の笑顔になる。
「もちろん。こっちだ」
正人も同じく笑顔で答え、ミナの手を取って土手から腰を離した。