デモンパラサイト 『あの日の夏、ぼくたちの夏』8
正人のこづかいは、他の学生よりも極端に少ない。
母親はもう少し持っておけと言うが、正人は必要最低限の額しかもらっていなかった。
あまり裕福ではない台所事情に配慮してのことなのだが、今回はそれがアダとなった。
所持金は2000円。
せめてミナに合う服を買ってやりたかったが、この額では苦しいにも程がある。
念のために確認したものの、ミナはまったくお金を持っていなかった。
というより、お金というものがあることや、概念をまったく知らなかったようなのだ。
ミナには何度も驚かされた正人であるが、お金の使い方も知らないというのは想定外。
ミナが、地球の常識が通用しない宇宙人のようにも思えてくる。
けっきょくは服の量販店にて、店員に予算内で適当な服を見繕ってもらった。
店を出たミナが身に着けていたのは、白いTシャツとライトブルーのハーフパンツ。
予算の低さにしては、まずまずといえるだろう。
白いTシャツは長い黒髪に映え、ライトブルーのハーフパンツもまた、ミナの髪とTシャツ両方との兼ね合いがとれている。
そのコーディネイトには、店員の頑張りが垣間見えていた。
(やっぱバイト探さないとな)
「街を見て回りたい」というミナの要望を聞き、繁華街の店をウインドーショッピングしながら、正人はそんなことを考える。
前々からバイトしようとは考えていたのだ。
遊ぶ金目的ではなく、家計の足しにする意味で。
だが、母親はなぜか反対している。
しかし。
明日から夏休みであるし、加えて今回のことで決心がついた。
(夏休みからはバイトしよう)
正人は心に堅く誓った。
今回のことを話し、交際費を稼ぎたいなどと言えば、説得もできるはずだ。
「ふんふん、ふふん」
正人が決心を固めている横で、ミナは上機嫌に鼻歌を歌いながら、スキップまじりの軽い足取りで店々を見歩いている。
これでも大人しくなったほうで、服屋にいる時などは、新しい服を確かめるように鏡の前でくるくると回り続けていたほどだ。
それは、まるで子供のようなはしゃぎ方であり、その様子は店員の、そして今は擦れ違う人々の失笑をかっている。
その後もミナの奇抜な行動に調子を狂わされながらも、なんとか夕方には帰宅した正人たちであった。