デモンパラサイト 『あの日の夏、ぼくたちの夏』5


 「……行ったか」


 正人たちがいた木の、すぐそばにある草むら。
 そこは丈の高い植物が密集して生い茂っており、中を見通すことはとても困難だ。
 そこで、安堵の声をもらすものがいた。
 人ではない。
 白金の毛並みも美しい、犬だ。
 そのとなりには、緑がかった黒髪を地面につけながらしゃがみこむ、1人の少女がいた。


 「あの人、いい人だね。また会いたいな」


 すでに正人が立ち去った場所を、まだ彼がいるかのように見つめる少女。


 「ミナ、やめておけ。外の人間でも不用意に近付くのは危険だ」


 それを聞いた犬は、妹をあやすように優しく、しかし厳しくたしなめた。


 「今の我々が外の人間と会っても、ろくなことにならん」
 「……そうだね」
 「それにヤツラも追って来ているようだ。そろそろここを離れよう」
 「うん……いこう、キューちゃん」


 事実とはいえ、辛い現実を諭されて落ち込んだ少女だったが、すぐに顔をあげ、行動を開始した。
 人目につかないように、すばやく公園を出る少女。
 犬がそれに続き、少女に並走する。
 木々の至るところに張り付いたセミの、五月蠅いほどの鳴き声が、図らずも足音を上書きし、跡形もなく消し去る。
 時間ごとに日差しが強くなる中、1人と1匹はなにかに追われるがごとく、陽炎ゆらめく道の向こうに消えていった。