デモンパラサイト 『あの日の夏、ぼくたちの夏』4
「おい、そこの君たち」
正人たちの困惑を遮ったのは、いかつい男の声だった。
その男は、うだるほど暑いなか、わざわざ黒い長袖のスーツをびっしりと着込み、目を保護するためかサングラスをかけている。
後ろに連れらしき男がいて、こちらは細身だが服装は同じ。
どちらも纏う雰囲気がどこか剣呑、営業マンというには無理がある。
良く考えて警察関係者、普通に考えれば裏の人間のそれだ。
「なにか?」
男たちの異様さを気にも止めない様子で、朱夜が質問を返した。
普通なら少しはたじろくほどの物々しさの中にあって、堂に入った態度だ。
「このあたりで、変わった女の子を見なかったか?」
いかつい男が用件だけを簡潔に言った。
「女の子?」
「そうだ」
「なにか特徴は? 変わっているだけでは……」
朱夜の質問にうなずき、外見や特徴を説明しだしたのは細身の男。
それがさきほどまで一緒にいた少女であることに正人は気付く。
しかし、顔には微塵にも出さない。
徹底的なポーカーフェイスだ。
「いや、知らないな。見たこともない」
朱夜が答えた。
「そうか、なら君は?」
「知らねぇ。そんなに目立つ奴なら忘れねえよ」
「そうか」
正人の嘘はどうやら見破れなかったようだ。
平静を装っている正人だが、実際は男たちの持つ気配にあてられ、緊張していた。
男たちはこれ以上聞くのは無駄だと判断したらしい。
「もし見掛けたら、ここに連絡をしてくれ。有益な情報なら謝礼を払おう」
そう言ってそれぞれに名刺を渡す。
「あんたら、いったい何なんだ?」
「家出少女を捜す探偵だよ、それでは」
渡された名刺を見ながら問う正人にそう返し、男たちは立ち去った。
「もう少し上手なごまかしをしてもらいたいな」
「まったくだ、嘘くせぇ」
やがて姿が見えなくなると、堪り兼ねたのか、2人同時に彼らのうさん臭さを指摘。
思わず笑い合う。
「いらない邪魔が入った、話はまた今度にしよう」
「ああ、そうだな」
お互いに携帯を変えていたため、新しい番号を交換しあった。
2年ぶりの再会にも関わらず、これほどあっさりしているのも、彼らだからこそといえた。
「正人の噂はこちらでも聞き及んでいる。“大滝の赤い狼”……そう呼ばれているらしいな」
「ああ」
「……無理は、するな」
「分かってるさ」
「なにかあれば力になる」
「待てよ、それはオレのセリフだ。あの時の分までオレは……」
「……そうか。なら、その時は頼む」
なにか思いつめる正人に、言葉の限りでたしなめる朱夜だが、正人の意志が堅いと分かると、素直に引き下がり、別れのあいさつをかわした。
心苦しいものが正人の胸に去来する。
朱夜が自分を気遣ってくれているのは分かる。
実際、らしくないことを続けて、自分自身消耗しているのだろう。
けれど、それで相手の好意に甘えることは正人自身が許さない。
2年前、悔いの残る別れ方をしたにも関わらず、今でも朱夜は変わらず友人でいてくれる。
正人にとっては、それだけで充分救われた心境なのだ。
それ以上のことを望むなど、力を貸してもらおうなどと、甘えるわけにはいかないのだ。
父のためにも、朱夜のためにも。
そして己のためにも。