最終回・愚鈍な自動人形5

特別なものが欲しかったわけじゃない…
あたりまえのものが欲しかっただけ…
ずっと求めていた…
ずっと探していた…


それは………




●夜の廃倉庫。
数人の悪魔憑きたちが一斉にその力を解放していた。
シルバとまほ子はシンジに照準を合わせ、ジョジョは中立を保ったまま戦いを見据えていた。
そしてエレナは…。
シンジを守るかのようにシルバたちの前に立ちふさがった。


【エレナ】:シンジは、シンジは私が…!
【シルバ】:邪魔をするな!


能力でシンジや自分の防御力を上げながら、シルバに立ち向かうエレナ。
その力は、並の悪魔憑きなら敵わないほどであったが。
シルバはその上をいっていた。
シルバの適格な戦い方に、逆に傷ついていくエレナ。
その間にもまほ子の長距離からの狙撃が、確実にシンジにダメージを与えていく。
そしてついに…


【シンジ(NPC)】:うう、ちくしょう…ちくしょう!
【エレナ】:…ああっ!?


シンジとエレナがダメージに絶えきれず、膝をつく。
エレナのそばを通り抜け、ゆっくりとシンジに近付くシルバ。
その足をエレナが掴む。


【エレナ】:もういいでしょ?なんでそんなにシンジを…私たちを傷つけるのよ…!?
【シルバ】:決まっているだろう、弱いからだ。
【エレナ】:…許さないっ!!


次の瞬間、シルバの身体が大きくのけ反る。
エレナの剛腕からの一撃をまともに受けたからだ。
満身創痍だったはずのエレナは先ほどよりも巨大な体躯となり、通常では考えられない力を放出させていた。
彼女に寄生する共生生物が、宿主を守るために暴走したのである。


【エレナ】:あなたなんかに、シンジを…!
【シルバ】:暴走か…なぜそこまでする?
【シンジ】:………。
【エレナ】:シンジは私の大切な人、だもの…。
だから、守るわ。
【シンジ】:…ウソだ。僕のためなんかじゃない…、人のためなんかじゃない。みんな、自分のためなんだ…。
【エレナ】:そうよ!ただの自己満足…私のエゴ……。
でも、それでも一緒にいたい!愛されたい!愛したいの!
だって…1人はさびしいもの………っ!!!
【シンジ】:!!!


少女は叫んだ。
それはあらゆる理屈や感情を超越した、叫び。
生まれた赤子の最初の産声のような、生命の叫び。
その叫びは、深淵の深みにただよっていた少年の心に届いた。


【シルバ】:どうした?…まだ女や人形に守られているつもりか?
【シンジ】:…エレナ、そこをどいて。
【エレナ】:シンジ…?
【シンジ】:きみは、手を出さないで。
…シルバ!あんただけは僕の手で決着をつけてやる!!
【シルバ】:(ニッと笑って)来い!シンジ!!


ジョジョが沈黙を守り、エレナがまほ子と戦っている間。
シンジとシルバは素手で殴り合っていた。
暴走し、わだかまりをぶつけるかのように殴り合う2人の表情は。
どこか清々しい笑顔だった。
永遠に続くかに思われた殴り合いも、やがて決着がついた。
シンジの攻撃にシルバがカウンターを繰り出したことで…。


力を出しきり、お互いに地面に倒れるシンジとシルバ。


【シルバ】:(荒い息をしながら)…あと一歩、足らんな。
【シンジ】:(荒い息をしながら)今度は…勝ってみせる…!
【シルバ】:ふん…楽しみだな…。


誰もが疲れ果てて気絶した中、ジョジョは帽子を深々とかぶり直し、一言呟いた。


ジョジョ】:人間ってヤツは本当に面倒だな、やれやれだぜ…。


ジョジョの表情は、穏やかな微笑であった。




〜エンディング〜
こうして何の事件も被害もおこることなく、安野シンジはセラフィムに保護され。
ジョジョ以外の全員が病院にて治療を受け、数日の入院となった。
誰かのはからいなのか、隣同士のベッドとなったシンジとエレナ。


【シンジ】:…ミレイってさ…。
【エレナ】:ん…?
【シンジ】:ミレイって、僕の母さんの名前なんだ。
…僕は母さんに、少しでいいから愛して欲しかったんだ。
一度でいいから、抱き締めてもらいたかったんだ。
【エレナ】:…うん。
【シンジ】:…でも、もういいよ。欲しかったものは、もうあるから。
【エレナ】:私も、同じね。
【シンジ】:うん。


ベッドに横たわる少年と少女。
2人はずっと手を握っていたという。
いつまでも。
いつまでも。
片時も離さずに。




(『その手、離すことなかれ』、完)