最終回・愚鈍な自動人形3

僕はいらない子供だったんだ。
父さんが欲しかったのは女の子だったから。
男の子が生まれたと聞いた時、父さんは憮然とした顔で
「なんだ、男か。…私は仕事に戻る。」
そう、言ったらしい。
母さんも、そんな父さんを追いかけて仕事に没頭して、そして何年か後に事故で死んだ。
一度も僕を抱きもせずに。
父さんの欲しかった女の子が生めなかったからだろう。
僕はおじいちゃんの家に引き取られて育ったんだ。
それから大友市に来て、明美と出会って。
少し前に悪魔憑きになって。
それでも変わりはしなかった。
父さんは金だけ渡して、一度も会いに来ない。
なにをいくらしようと、僕がいらない人間だってことは、なにひとつ、変わらないんだ。




●夕方、清涼学園校門前。
まほ子は本来の業務である清掃作業を行いながら、周囲に目を光らせていた。
「〔安野シンジ〕が学園の方へと向かったらしい」との連絡があったからだ。
やがて、校門のそばにある電柱の影に身を隠し、下校する生徒たちを見つめる不審な人物に気付いた。
あの姿は間違いない、安野シンジだ。
「お待ちなさい!」
やおらシンジを箒で指し、叫ぶまほ子。


【まほ子】:未来を生み出すべく、懸命に学ぶ乙女たちに向ける邪なる意思…人、それを“邪念”という!
【シンジ(NPC)】:なっ…なんなんだよ、あんたは!?
【まほ子】:私は天宮まほ子!
安野シンジさん、あなたを保護するよう頼まれています!


まほ子が名乗りをあげている間に逃げ出すシンジ。
そこにエレナたちもやってくるが、すでに目視できる位置にはシンジの姿はなかった。


【エレナ】:見失うわけには…いかない!


一般人のいる前で〈飛行〉を使い、空から捜索するエレナ。
それにまほ子も続く。


ジョジョ】:あの2人…正気か?
【シルバ】:ぬう、どいつもこいつも手がかかる…!


あまりにも非常識な行動にあっけにとられながらも、車で後を追うシルバとジョジョ
周りは、いや街の一部は騒然となっていた。




●駅から北側の繁華街。
仕事帰りのサラリーマンなどがごった返す大通りの通行人たちは、なにかしら話しながら空を見上げていた。
暗くなりかけている空にはエレナとまほ子の姿が。
周りが暗い上に人が多過ぎて捜索は困難だろう。
そう判断してビルの地上に降りようとした時、2人は自らの失策に気付いた。
多くの通行人に自分たちの姿を見られた。
その一部はこちらを追いかけていた。
ひとまずビルの屋上に降り立ち、身を隠す2人。
そのビルの入口で番組の撮影だと説明するシルバ。
その光景を見てしまったエレナは、思わず悲鳴をあげてしまう。


【エレナ】:い、いやーーーっ!
【シルバ】:(小声で)バッ…あの娘、なにを…!


屋上に詰め掛ける人々。
なかば強引に彼らを振り切り、車で走り去るエレナたちであった。




●その頃、ジョジョは通行人をすりぬけながら、研ぎ澄まされた嗅覚で路地裏にて、シンジに追いついていた。


【シンジ】:じ、ジョジョさん…!
ジョジョ】:もう逃げるのはやめろ、シンジ。
【シンジ】:いやだ!もうおまえらの言うことなんか聞くもんか!
ジョジョ】:みんな、おまえを心配しているんだ。
【シンジ】:うそだ!そうやって、今まで僕を騙していたんだ!
ジョジョ】:話してダメなら…力づくでも連れていくぞ?
【シンジ】:…やれるもんなら、やってみろよ!!
ジョジョ】:…やれやれだぜ。


互いに悪魔化しながら激突するシンジとジョジョ
数瞬のあと、路地裏に倒れたのは…ジョジョだった。




(続く)