最終回・愚鈍な自動人形1

〜プロローグ〜
●シンジの自室。
外が夜の闇に満たされているにも関わらず、シンジは電気もつけずに無表情でベッドに腰掛けていた。
彼にとって最愛の人形…いや人、ミレイを失ったからだ。
混乱する思考が交錯し、さらに意識は混沌へと墜ちて行く。
思考の果て、彼は結論に至った。


ミレイは永遠だ…死ぬわけが、ましてや壊れるわけがない。
あれは、あの人形は、あのできそこないは、ミレイではなかったのだ。
ならば“見つけ”なければならない。
本物のミレイを…。




〜PC紹介〜
今回は、ワシが仕事の都合で人吉に行くことになり、その送別会のメインイベントのセッションである。
メンバーがワシのためにシナリオをこさえてくれたのだ。
ワシは喜んでPLとして参加した。


〔エレナ〕14歳・女
共生生物はブリガンダイン+ヴォージェの、本キャンペーンのヒロイン。「人形の館」事件で助けられて以来、シンジと同居生活をしていたが…?
シンジに心惹かれており、彼の言うことなら大抵従う。


〔白銀 シルバ〕25歳・男
共生生物クレイモアを宿すバウンサー(用心棒)。なぜかシンジをたくましくしようと、事件にひきずり回す。そして今回…


〔城島 ジョセフィーヌ〕1歳・オス
ショーテルを共生生物として宿すハムスター。通称“ジョジョ”であり、通称以外で呼ばれると怒る。


〔天宮 まほ子〕21歳・女
清涼学園に清掃員として勤めるメイド。
主人である理事長のために、自ら共生生物「ブリガンダイン」を寄生させた。
いろいろ“清掃”するのが仕事。




〜オープニング〜
●まだ夜も明けぬ早朝。
エレナは自分に割り当てられた部屋で眠っていた。
閉所恐怖症である彼女は、部屋に鍵をかけず、ドアを少し開けていた。
その隙間が何者かによって、ゆっくりと開かれる。
その音に気付いたエレナが目を覚ますと、部屋の隅にシンジが立っていた。


【エレナ】:…シンジ?
【シンジ(NPC)】:服を脱いでよ。
【エレナ】:……?わかったわ。


シンジの声にはあまりに抑揚がなく、機械的ですらあった。
いつもと違う様子に違和感を抱きながらも、エレナは衣服を脱ぎ始めた。
ほどなく一糸まとわぬ姿となって、シンジの前に立つ。


【シンジ】:協力してよ。こっちに来て。


相変わらず機械的な物言いに一瞬、既視感を覚えながらエレナはシンジのあとに続いた。
向かった先は、フィギュアを作るための機材などが置かれた、半ば工房と化した部屋。
中央には手術台を思わせる、簡易制のベッドもある。
シンジはそこにエレナを寝かせた。


【エレナ】:なにをするの?
【シンジ】:ミレイを…本物のミレイを作らなきゃいけないんだ。そのためには人間の体の感触を知らなきゃいけない…いやだって言うの?


エレナは首を横に振り、「いやではない」と無言で伝えた。
いや、むしろ、嬉しかったのだ。
たとえ、彼女の想像していたものと違ったとしても、彼に求められたのだから。
彼は優しく暖かい。
それがエレナの、シンジに対する印象だ。
少し前、彼女は狂気の人形師〔間宮 陣区朗〕から助け出された。
その時、恐る恐る彼女に触れた彼の手を、とても優しく、暖かく感じた。
今でも、その感触と熱は彼女の頬に残っている。
その温もりを知っているからこそ、彼女はシンジに全てを委ねているのだ。
だが。
今、エレナに触れているシンジの手は別人のように冷たかった。
まるで物でも掴むように手を動かしていく。
それは感触を知るためのものでしかなく、エレナに対する気遣いや思いやりといった、人間らしい配慮は皆無だった。
こんなのシンジじゃない。
エレナはさきほど感じた既視感の正体に気付いた。


やつらと同じなのだ。
私を金で売ったやつら、
そして私を金で買ったやつらと。


エレナの全身に嫌悪と恐怖が走る。


【エレナ】:いや!


気付くと、無意識にシンジを突き飛ばしていた。


【シンジ】:なんだよ…やっぱり嫌なのかよ…もういいよ、他を探すから…。
【エレナ】:どうしたの?シンジ、いつものシンジに戻って!
【シンジ】:いつもの僕ってなんだよ?ウジウジオドオドしてるのが、僕だって言うのかよ!
【エレナ】:違う!あなたは…
【シンジ】:来るなよ!裏切り者!
【エレナ】:…!!


硬直するエレナの横を通り抜け、シンジは朝の大友市へ飛び出した。
少年が朝靄に消えた後も、少女は硬直したまま立ち尽くしていた。