デモンパラサイトキャンペーンその3

「…なんだよ、てめえら。何者だ…!?」
「私は施設の職員。彼女は私の生徒だよ。」
並の不良なら震え上がる正人の眼光を正面から受け止め、白衣の男は悠然と答える。
「ミナ、おまえはどうなんだ。帰りたいのか?」
「…いや。」
正人の問いに、絞り出すような、吐き捨てる声で答えるミナ。
「やっと逃げてきたのに…あんな所に戻るくらいなら……!」
「なら話は早え。」
ニッと笑った正人は真正面の白衣の男に走り込んだ。
‘頭’を潰す。
1対多の戦いでは鉄則だった。
実際に彼は、この方法で何回も勝ってきたのだ。
白衣の男は素早く後ろに退き、代わりに隣りにいた黒服の男が正人の前に立ち塞がった。
正人は黒服の腹に向けて拳を放つが、すんででいなされ。
続け様に腕を極められ、強制的に跪かされる。
「正人!」
ミナの声が正人の耳に響く。
「俺の事はいいっ!逃げろ、ミナ!!」
正人は叫ぶが、ミナは逃げようとはしなかった。
今が好機と判断したのか、ミナに近付く黒服たち。
男たちの注意が、全てミナに向けられていた。
そんな一瞬の隙を見逃すような正人ではなかった。
「油断しすぎなんだよっ!」
腕を極められた状態からできる唯一の攻撃、それは頭突きだった。
幸運なことに正人の声に振り向いた黒服の鼻っ面に直撃し、拘束から抜け出す事に成功した。
「ミナ、こっちだ!」
正人は手をのばし、ミナを導こうとする。
白衣の男1人ならなんとかできる、今しか逃げる見込みはない。
そう判断したからだ。
実際、その判断は間違ってはいない。
むしろ正しい。
…相手が普通の‘人間’だったなら。
「正人、後ろ!?」
ミナの声にイヤな予感を覚えた正人は、素早くその場を跳びずさった。
間一髪。
豪拳が正人がいた地面を叩き、アスファルトを砕く。
その威力に正人に戦慄が走る。
あんなものを食らっては常人など一溜まりもない。
戦慄の原因はそれだけではない。
さきほど正人が頭突きを食らわせた黒服が立ち上がり、化け物のような姿に変身したのだ。
白衣の男は舌打ちした。
「こんなことで変身するとは…しかたない。さっさと片付けろ。」
解禁の合図と見た黒服たちは一斉に変身する。
さきほどの豪拳を3人がかりで振るわれたら…。
正人に絶望感がよぎる。
「お願い…正人。」
そこに聞こえたのは、覚悟を決めたような、凛としたミナの声だった。
振り返った正人にミナは苦痛に耐えるかのような、辛そうな表情で言葉を続ける。
「わたしの事…嫌ってもいい。憎んでも、恐れてもかまわない。…だから、今はわたしから…離れないで……っ!!」
その言葉をいい終わる前に。
ミナの体がメキメキと異音を立てながら、化け物のそれへと変化していく。
真紅に彩れた外骨格、全身から生える無数のトゲ。
変化が完了したミナの姿は彼女の面影などカケラも残してはいなかった。
その姿は、まさしく悪魔。
「………!」
その姿を見た時、正人は恐怖した。
姿は変わっても彼女はミナだ。
そう分かってはいても、底から沸き上がる恐怖を押さえることが、どうしてもできなかった。
変身したミナは正人をかばいながら、3体の黒服だったものと戦った。
戦いは終始、ミナの優勢で進み、1体を電柱に叩き付けて行動不能に追い込む。
だが。
「…どけ、おまえたちでは話にならん。」
後ろで戦いを傍観していた白衣の男はそう言って、メガネと白衣を脱いだ。
白衣の男の周囲に冷気が漂い、凍った水蒸気が鎧のように男を包む。
一瞬の後、白衣の男はきらめく鎧を纏った騎士の姿に変わった。
そして片腕を大型の槍に変え、ミナに向けてふるった。
3体の黒服たちと優勢に戦っていたミナが、徐々に押されて行く。
身体能力を超える技術の差、それが勝負の明暗を分けた。
やがて、耐えきれなくなったミナが、ついに膝をつく。
「…おねがい、わたしはどうなってもいい。正人は助けてあげて。」
勝敗を自覚したミナは騎士に懇願した。
「待て。俺を殺せ。言う事を聞けっていうなら聞く。だから、ミナを見逃してくれ!」
正人もミナをかばうように前に出て、騎士に懇願した。
騎士がバカにするように笑った、ように見えた。
「ダメだな。もはやどちらも死あるのみだ。」
騎士は2人の懇願に耳を貸さず、トドメといわんばかりに槍を上段に振り上げ……。




(続く)