デモンパラサイトキャンペーンその2

放課後。
特に何事もなく、部活にも入っていない正人は帰るべく、まっすぐに校門へと向かった。
そこで正人は奇妙な人だかりを目にする。
何事かと近付くと、すぐに人だかりの理由を理解した。
朝出会った少女が、あの時の服のまま――胸元に子猫の血がついた簡素な服のまま――誰かを待っていたのだ。
その様子は待ちくたびれているようでもあり、楽しみで仕方ないようでもある。
少女の人目を気にしない振る舞いに半ば呆れながらも、正人は少女の手を取り、その場を離れた。
後ろの人だかりの何人かがなにかしら囁き合っていたのを睨んで黙らせる。
「どうしたんだよ、おまえ。ずっと待ってたのか?」
「うん、…ええと……?」
「正人。上田正人だ。」
「わたし、ミナ。よかった、また会えた!」
「なんか用なのか?…俺ん家に来るか?」
「正人の家?…うん!」
手をつないだまま、繁華街を通り抜けようとする正人。
だがミナは立ち止まり、言った。
「正人。」
「うん?」
「わたし、街を見て回りたい。これってデートっていうんでしょ?」
「ああ?…わかったよ。その前にその服、着替えないとな。」
「…なんか変?施設じゃみんな、この……」
そこでミナはハッと気付いて言い直す。
「そ、そうだね!着替えないといけないね!」
「…?」
2人は服の量販店に入り、ミナの服を探す。
「ねえ、正人!わたし、これがいい!」
ところが、正人の持ち合わせではミナの気に入った服は高過ぎて買えなかった。
結局、店員に予算内で選んでもらい、それなりで違和感のない服に着替えさせる事ができた。
それから2人はウィンドショッピングを空が紅くなるまでやった。
ミナにとっては街を歩くだけでもうれしいらしく、終始、子供のようにはしゃいでいた。
それも終わり、家路へと着く2人。
夕焼けでオレンジ掛かった朱に染められた路地を歩きながら、たわいもない話をする正人とミナ。
「おまえさ…」
「うん?」
彼にしては珍しく、自分からミナに話しかける正人。
それを楽しげな表情で聞くミナ。
「そうやって笑うとかわいいよな。最初の無愛想なヤツと同じとは思えないぜ。」
「かわいい?」
ミナはきょとんと目を丸くする。
「ああ、かわいい…ぜ。」
照れくさそうにソッポを向きながら、正人は言った。
心なしか、その声はうわずっていた。
「…正人。」
やけに改まったミナの声に正人が視線を戻すと、彼女は目を閉じ、唇を突き出していた。
とはいえ、明らかに力が入り過ぎていて、不自然な顔になっていた。
それでも、正人の胸にはおかしさは込み上げず、むしろ愛しさが芽生えた。
正人はミナの両肩に手を掛け、唇を重ねようとした。
「…ダメ。逃げて…!」
ミナが震えた声で言う。
誰に言ったものなのかは分からない。
が、正人は辺りを見回した。
それは不良として生きてきて身につけた、本能だった。
予感は当たり、正人とミナを囲むように、黒服にサングラスの体格のいい男たちが現れた。
後ろに2人。
前に1人。
しかし、前には黒服の他に白衣にメガネをかけた、ほっそりとした男がいた。
一見、人当たりの良さそうな表情をうかべているが、この手の人間がいちばん危険であることを正人はイヤというほど知っていた。
白衣の男がことさらに優しい声でミナに話しかける。
「やっと見つけたよ?DPM―0037…いや、ミナ。ダメじゃないか、勝手に施設を出ちゃ。」
男は両手をミナを迎え入れるように広げ、続ける。
「さあ、ミナ。帰ろう?今なら軽い罰で済むよ?…そこのお友達にも来てもらおうかな?」




(続く)