デモパラ『その手』シリーズ第5話 プロローグ


 都庁のとある一室。
 安物の事務机と型落ちした端末、いたるところに置かれた棚。
 そして、そのスペースを埋め尽くす書類や記憶媒体の束。
 そんな、ろくに整理もされていない雑多な室内に、2人の男がいた。
 1人は椅子にだらしなく座り、1人は日除けを下ろした窓のそばで外を見ている。
「それが今回の仕事っていうわけですね? 安野ゲンドウ隊長殿」
「そうだ」
 安野隊長と呼ばれた、窓際の男は問いに答えた。
 痩せこけた顔に眼鏡のフレームが当たるのか、時折眼鏡の位置を直している。
「承りましたぜ。……しかし、なんでわざわざ外部に? 監視と護衛ってんなら普通、内部でやるもんでしょ?」
「女王に護衛など必要ないよ」
「息子さんだっていらっしゃる」
「必要ないといった。お前はただ、こちらが言った事をしていればいいのだ、素良」
 忌々しげに、レンズと窓を通して男を睨みつける。
 対して、素良と呼ばれた男は、大袈裟に溜め息をついた。
「口と手が過ぎれば、破滅の元になるぞ」
「気をつけますよ。職業柄、どうしても出ちまいますからね」
 素良はそう言って億劫そうに立ち上がると、ふらついた足取りで出入口へと向かう。
「隊長さんも、なんでもかんでも隠したがるのは、悪い癖ですぜ?」
 そして、そんなことを言い残して、『資料整理室』と書かれたドアから出た。
 素良が去ってからも、ゲンドウは窓を見続ける。
 その表情は固く微動だにしない。
 それは、どんな時も変わらない。
 内閣危機対策室・第一部隊隊長、安野ゲンドウ。
 彼の異名が“死人”(しびと)と呼ばれる所以である。