デモンパラサイト 『それぞれの始まり、夏の終わり』16


 あまりにあっけない結果に、その戦いを見ていた職員たちは唖然とした。
 悪魔憑きとはいえ、変身もせずに倒せるほど弱い相手ではないはずだ。
 それを人間のまま、しかも2分ほどで倒せるなど、常識外である。
 さしもの白石も動揺が顔に表れている。



 「教授」
 「いやいや、素晴らしいな」


 この結果に、渡部はとても満足そうだ。
 口元は愉快そうに歪み、圧し殺した笑いが漏れている。


 「これでまたひとつ、彼が“そう”であると立証された。いい。実にいい。万事順調だよ」
 「しかし、教授。やはり奴は危険です。お調べになるなら、早急に事を運ぶべきかと」
 「心配はいらんよ、こちらに“あれ”がある以上はこちらの力は揺るがない。それにだ、白石くん。あれほどの成果を示した者を調べ尽くさないなどと、私にとっては拷問だよ?」
 「はあ」
 「くっくっく、ようやく……30数年かけて、ようやくここまで来れた。人類の進化、文明の進歩……」


 渡部は笑いながら何事か呟き続ける。
 周りに白石や研究員がいようと、まったくの無視だ。
 完全に彼自身の世界にのめり込んでいる。


「終末論など、宗教家にでも任せておけばよいのだ。進歩、進歩こそが全て。いかなる理由があろうと、使える力を使わぬ理由など、どこにもないのだ」


 白石は、渡部の執拗なまでに進歩を求める姿に、時々恐怖することがある。
 もうすでに充分すぎるほどの力と知識を持ち合わせていながら、知らぬことなど何ひとつないほどでありながら、それでもまだ飢えているのだ。
 向上心と呼ぶにはあまりに凶暴で、病的だ。
 聞くところによれば、渡部は悪魔寄生体が発見される前から、このような人間だったらしい。
 いったい何が、天才をここまで駆り立てるのか……。
 そして、人類をさらに進歩させていって、いったい何をしようとしているのか。
 渡部のなにもかもが、本人以外の誰もが理解しえなかった。